2022/8/12
日本の出生率は下がるばかりである。
国家の存亡にかかわる重大事であることは、以前からさんざん言われている。
だが今もって有効な手立てもない。婚姻率は下がる一方だ。
最近の若者たちは、恋愛や結婚からは、遠ざかる一方だという。
金がない。それが大きな理由の一つだそうだ。生きるだけで精一杯で、もはや恋だの愛だの言ってる場合ではないのだという。
確かにそうなのかもしれない。昔は、就職すれば大船に乗った気でいられたが、今や板子一枚下は日本海溝。賃金は先進国で最低レベルで、経済政策は、庶民から毟り取るような内容ばかりだ。
「20代男性の4割が『デートの経験がない』と答えた」との報道もあった。恋愛は、ショーウインドウの高級品になってしまったかのようだ。
SNSの発達も、恋愛阻害要因のひとつと言われている。
「みんなつながってるよ!」と言いつつ、できあがったのは相互監視ネットワーク。昔、恥はかき捨てることができたが、今はあんな行いもこんな行いも天下に晒され、しかも履歴に残ってしまう。うかつに動けない。
そして、ネットを開けば、天使だのイケメンだの女神だの、美男美女ばかりを見せつけられる。
「○○○の美ボディに驚愕の声続々!
「脚長ッ!イケメンすぎる○○○のオフショット!」
見るつもりがなくても、見出しに煽られてつい指が動いてしまうところが、テレビとちがうところだ。
「キレイ! カッコいい! あこがれる〜!」
そう思う反面、気づかぬうちに
「どうせオレなんか」
「あたしなんか」
といった劣等感は、心の底に水ゴケのように心にへばりついてゆく。
「寝起きのすっぴんでひどい顔ww」
などと言いつつ、しっかり美人であるインスタ写真。わざとらしい。見えすいている。だが指をくわえるほかはない。スマホ画面を見下ろしているはずなのに、気がつくと上目づかいだ。
こういうネットの自慢投稿は、青少年の自己肯定感を阻害し、ひいては結婚願望を萎えさせているのではあるまいか。
いや、きっとそうだ。そうにちがいない。もうこうなったら、自慢投稿は国家の発展を妨げる違法行為として、厳しく取り締まったらいかがだろう。
ルックス、美食、ファッション、不動産等、あらゆる自慢が対象となる。お高いワンコなどもってのほかだ。
伊万里の壺なんか買って写真をアップしたら、強襲部隊に突入されて、手が後ろに回る。
ビジネスの成功自慢なんかした日には死刑だ。しかも打ち首。
日本の少子化対策には、「生類憐みの令」にも匹敵する思い切った施策が必要であると、憂国の士として思う次第だ。
※ ※ ※
こちらは現実の話である。
茨城県では、AIがお見合いをサポートするシステムを導入し、好成績をおさめているという。
希望者のプロフィール、価値観、条件等を入力すると、AIが診断し、最適と思われる交際相手を紹介してくれるのだそうだ。
「男と女の間には深くて暗い川がある」
というが、情報ばかりあふれかえる昨今では、川は濃霧でさらに視界不良だ。見通しがきかず不安ばかりが募る。二次元やBLに入れ込むのも道理である。
だがとうとう船舶レーダーが導入されたのだ。迷える愛の子羊も無事に港へ送り届けられる。人工知能の使い方としては、最上のものではなかろうか。これからの婚姻は、きっとこうしたAIマッチングが主流になっていくのだろう。
だが、こういった仕組みにも弱点がないわけではない。
このシステムは、人間が結婚願望を抱いていることを前提に機能する。
だが、世間には色々な人がいるものだ。
「どうせ私なんか」と投げている人もいる。はなから関心がない人もいる。独身貴族をしゃれこんでいる人もいれば、「結婚なんて墓場さ」と斜に構えている人もいるだろう。
AIマッチングは、こういう人たちに働きかけることができない。こじらせた人、醒めた人、万事適当な人物などはレーダー圏外になってしまう。
しかしそういう人は昔からいたはずだ。
ではなぜ昔の日本は少子化に陥らずに済んだかというと、職場やご町内に一人は、お節介なおばちゃんがいたからである。
見合い写真を小脇に抱えて押しかけてきて、まくしたてるおばちゃんだ。
「ね、ね、いい人いるんだけど、どう? 年はこれこれで、趣味はこれこれ、実家はどこそこ‥‥‥‥」
相手はたいがい気乗り薄だ。
「え〜? 見合い〜? いいよオレは‥‥‥‥」
「あたしファッションデザイナーになるの。結婚なんて考えられないワ」
取りつく島もない。しかし、
「い〜い人なのよォ。滅多にいないわよォ。あたしの目に狂いはないわよォ‥‥」
と、延々とやられると、頑なだった姿勢もいつしか軟化してくる。
「そんなに言うんなら、行ってもいいけど、でも会うだけだぜ」
「じゃあ写真だけ置いてってよ、暇だったら見てあげるわ」
とりとめもない話と、無限の厚かましさで、心にくさびを打ち込むこの能力こそ、おばちゃん特有のものだ。
若い男女では説得力がない。おじさんでは説教になってしまう。おばちゃんでないとだめなのだ。
そしていざお見合いになると、
「あっ、あのその、ご趣味は‥‥」
などと急にへどもどしたり、畳にのの字を書いたりして、気がつくと空は日本晴れ、さてもめでたや披露宴、といった具合になっていたのである。
この昭和のおばちゃんこそが、少子化の進む日本において最も必要とされる存在であろう。
だが、こんな鬱陶しくも懐かしい昭和のおばちゃんは、モラルや、セキュリティや、プライバシーのはびこる令和の世には生息しづらく、もはや絶滅危惧種だ。
もう望みはないのだろうか。
いや、こういう時こそ日本のお家芸を生かす時だ。
お見合いAIをロボットに搭載して、積極的に働きかけるのだ。
もちろん姿形はおばちゃんそのものである。
おばちゃんロボは、タブレット片手に道ゆく人に声をかける。
「ちょっとあなた! いい人いるんだけど、会ってみない? ほらこの人、お似合いよ。ね? ね?」
多くの人は黙って手を振るか、知らん顔をして通り過ぎるだろう。
おばちゃんはまったくめげずにしゃべり続ける。
「お仕事は保育士、27歳。趣味は映画とカフェ巡り。もう、性格も趣味も価値観もあなたとバッチリなのよう。ほらタイプでしょ。
何でわかるのかって? おばちゃんほら、顔貌性格識別システムあんの。顔見ればもうばっちりなの。
200万パターンのデータと瞬時に照合できるから、相性の良さがすぐ判定できるのよう。お国の仕事だから個人情報や医学データもいただけちゃうし」
にわかに歩みを速めるも、相手はまったく動じない。急に角を曲がったり、駆け出したりしても、歩調を同期させてぴったりついてくる。
「二人の年収から、財形とローンをこうやりくりして、うん、家計の方もいけるじゃない!
性格特徴、嗜好、情緒性、協調性、神経症的傾向、心理特性‥‥総合適合率は83.2パーセント!おばちゃんびっくりよ。いないわよォ。こんな人滅多にいないわよォ」
いやな顔をしても、舌打ちしてもおばちゃんはめげない。ロボットだけに鉄面皮だ。
頭にきて叩いても、チタン合金性なので傷もつかない。
「基礎疾患なし、発症リスク低レベル‥‥‥‥細胞診もクリア。体も問題ないわね!
体といえば、あっちの方も特性バッチリなのよう。ね、こういうのとか。こんなのとか。
ごめんなさいねえ。往来で「あっちの方」とかねえ。ほら、おばちゃん機械だからデリカシーなくて。ごめんねえ。ホホホホホ」
もうこの頃には涙目だ。車で逃げても追いかけてくる。根負けし、とにかくおばちゃんと離れたい一心で、なんでも頷いてしまう。わかったから。もう会うから。会いますから!
執拗な取り調べで、あることないこと自白する心理と同じである。
「会う? ウンウンいい子ね。じゃ今度の土曜、この店に予約したから、行ってちょうだいね。
行かないとおばちゃん、家に寄らせてもらうからね。
え? 行きます行きます? それがいいわよ。泣かなくてもいいのよ。幸せが待ってますからね。じゃね。じゃね。あっ、ちょっとそこの人! いい人いるんだけど!」
こうして渋々相手に会うが、最新の人工知能が照会しただけのことはあって相性は抜群。へどもどしたり、のの字を書いたりしているうちに、気がつくと空は日本晴れ、さてもめでたや披露宴、といった次第である。
このお見合い斡旋ロボットを、日本全国に5万機ほど配備すれば、我が国の婚姻率もV字カーブで上昇だ。
他国にはマネができない。そもそも「お見合い」という仕組みがないからだ。
出生率においてもフランスなぞすぐに抜ける。
「プライバシーの侵害だ」「自由恋愛を国家が統制するなどけしからん」
しばらくはそんな声も聞かれよう。しかし、すぐにおとなしくなる。
我が国の国民の従順なることは、世界に類を見ない。いくら搾ってもまだ搾れる。三番搾り、四番搾りあたりまでいける。おまけに支持までしてくれる。
弾圧するわけでもない。金を取ろうというのでもない。幸せにしてやるというのだから、誰も反対はしない。
斜に構えた人も「変なロボットに捕まっちまってさ」などと言いつつ、数年後には、目を細めて我が子と自撮りなぞしているであろう。
恋だとは愛だとかは、アニメとかマンガにまかせておけばいい。
これからはおばちゃんだ。おばちゃんロボだ。
日本はなぜか、ロボット作りというと美少女ロボットばかりに熱中するが、開発すべきはおばちゃんであろう。
日本の技術をもってすれば、明日にでもできる。
さあ作ろう作ろう!